しゅう館長の読書日記

読書日記という名の自分語り

『たんぽぽ娘』(ロバート・F・ヤング 河出文庫)感想

 

 

以下、各話を感想を3行程度でまとめてみました。
ネタバレ含みますので、お気をつけください。
 

特別急行がおくれた日

SF短編って、一見日常と変わらない描写から始まって、徐々にSFの世界に移行していく流れが型としてあるけど、
本作は、どこから異世界に移っちゃうのか分かりにくくて良い。
ヤングは日常のディティールを描くのがほんと上手なので、異世界の入り口=日常の隙間を探すのがワクワクしちゃうんだよね。
 

河を下る旅

まさにヤング御大の本領発揮と言った、ロマンス+人情物。
河が急流になると同時に物語が急展開になる構成もGOOD!
そもそも死へと向かうことを、河の流れと表現しているところがとても好き。
 

エミリーと不滅の詩人たち

落語にありそうな、きれいにオチる話だなぁと。
主人公の女性のパワフルさに脱帽。
クラッシクカーも悪くないと思うんだけどなぁ(笑)
 

神風

生物爆弾、物質化した瞬間射出しないといけない爆弾。こんな設定どうやったら思いつくことができるのだろう。さすがはヤング。
似たような設定のアニメか漫画を読んだことがあるのだけど、この作品と関連があるのかな。タイトルが思い出せない……。
序盤に女性将校二人から唐突にレイプされる展開、とても怖かったんですけど…‥。
 

たんぽぽ娘

最高。下手な感想を書く気にはならないので、代わりにラストを引用します。
 
彼女はまっすぐに歩いてきた。その目には見慣れた不安の色があった――原因を知ったいま、正視するにはあまりにも痛々しい。見守る目のなかで、彼女の姿がぼやけた。盲いたまま、妻のところへ歩みよる。近づくにつれ、視界がふたたび開けた。彼は手を伸ばすと、はるかな時を超えて、彼女の雨に濡れた頬にふれた。何もかもが終わったと知ったのだろう、彼女の目から不安は永久に去っていった。二人は手をとりあって、雨の中を家路についた。
 

荒寥の地より

さきほど、「たんぽぽ娘」の感想で、最高と書いたけども、実は本書のなかでこの作品が一番好き。
人情の温かみ。いやぁ。人って本当にいいですよねー(水野晴郎風)
これが遺作なのね……。惜しい。このクオリティの作品をもっと読みたかった。
 

主従問題

もう、タイトル考えてよー。犬が出てきた時点で、オチが読めるじゃん!
でもオチがわかっていても楽しい作品だからいいけどさぁ。
ゴールドバーグ・マシンって素敵。ようはピタゴラスイッチってことね。
もしくは、バックトゥザフューチャーのオープニング



 

第一次火星ミッション

火星で、オーパーツ?を見つけてしまったときの心理描写がよい。
主人公ラリーの気持ちがすごく分かる。僕も絶対に隠すわ。前人未踏の火星で、自分が少年時代に使ってたナイフが見つかったなんて。説明が非常にめんどくさいし、信じてもらえないもんね。
終盤の少年時代と、大人時代の描写が交互に入れ替わる構成もGOOD
 

失われし時のかたみ

過去の表現方法が素敵だなぁ。そうか「過去は必然的に死んだもの」だから、窓のない部屋と同じなんだな。
酔っぱらいの独白、文章が最高に良い。ページを画像として貼っておきます。

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「失われし時のかたみ」『たんぽぽ娘』ロバート・F・ヤング 河出文庫

最後の地球人、愛を求めて彷徨す

この短編集では唯一、好きに慣れなかった短編。
厨二病おつ!としか……。
 

11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス

なるほど、いばら姫の設定をSF的に味付けするとこんな感じになるのか。
設定の強引感がすごいけど、思いつくほうがすごいので、そこには目をつぶりたい。
その場にふさわしい身なりに整える衣装がほしい。ほしい。
 

スターファインダー

宇宙クジラが出てきた時点でなんか興奮した。ジョナサンと宇宙クジラの続編?だ。
テラルテアの女性の描写がグロテスクで怖い。筆者の性的歪みを感じる。
本作は長編のプロローグ的短編らしい。長編になると、女性蔑視的だと批判されるが、さもありなんといったところか。宇宙クジラの設定は素敵なのに惜しいな。
 

ジャンヌの弓

あー、ヤングの短編は本当にいいものですねぇ(水野晴郎風)
ハッピーエンドで終わってよかった。
自分の好みの男性が検索できるコンピュータってすごい。怖い。
 

全体を通して

いやー、ハズレのない素晴らしい短編集でした。
ボーイミーツガール、ありきたりと言われるかもしれないけど、
やっぱり物語の最小単位として無駄がないこの形式はいいなぁ。
心がほっこりする短編が多いのもヤングの素晴らしさだぁ。
 
ただ、あとがきに怖いことが書いてあった。
短編の延長で長編を読むことはおすすめできない
とか
長編全体を読むと少女愛ばかりが目立ち、それとは対象的に成熟した女性への憎悪が全面に押し出されてくる
とか
アラブの少女といちゃいちゃしているだけでページが過ぎていき
とか
結論として、ヤングの長編について断言できることは「すべて壊れている
とか。
 
ヤングの長編はだめなのかぁ。
確かに読んでて、成人女性に対しての偏見や嫌悪感が垣間見えることが気になっていたけど、長編になるとスポイルされちゃうのだなぁ。
これは残念である。